聞間拓「MY LINK STORIES」
RYOJIROCKがサウンドプロデューサーからの目線でライナーノーツ、レビューをしようと思います。
聞間拓本人のレビューとはまた違った角度からのレビューを楽しんでもらえたら幸いです。
聞間拓「MY LINK STORIES」
1.旅人よ
全国を旅しながら歌い続けている「旅人」聞間拓のベストアルバム1曲目にふさわしいナンバー。一昨年発売したシングル「フレア」のレコーディング時にはすでにプリプロが出来上がっていて渋谷DUOのワンマンの時のアレンジもこのプリプロからだった。弾き語りのアーティストたちの中心に居ながらもそのギターのリズムはロックやファンクのフレーヴァーがあり、彼はそれをギター1本で聴かせる事が出来る。弾き語りのデモが既にこういう曲に成りたいと主張しているように聴こえてきて、頭に浮かんできた音像を忠実に再現して完成した曲。自分を鼓舞し、ツアーミュージシャンの仲間たちを鼓舞する始まりの歌。
2.どこまでもドア
古いデモ音源は過去に聞間拓をサポートしていたギタリスト兼アレンジャー、向山 周一によるものだった。実はRYOJIROCKが聞間拓と知り合う前から向山とは友人であり、お互いのギタープレイをリスペクトし合う仲であった。向山が地元九州へ戻った数年後に出会い、アレンジを引き継ぐこととなる、不思議な縁である。彼からバトンを受けとったような気持ちもあり、その上で自分らしい音作りであるべきという気持ちで制作に取り掛かった。この曲も「旅人よ」同様制作初期にアレンジが完成していた。
過去のアレンジを踏襲しながらもよりストレートに、よりロックに。何度でも立ち上がる、負けんな、そんな想いが詰まった歌詞とメロディがより届くアレンジを心掛けました。
3.かたつむり、やどかり
一聴すると変拍子に聴こえるけど実はアクセントの位置がスリップしているだけで4小節でちゃんと戻ってくる不思議な曲(マニアックな話です、気が付かなくても良いんです)他の曲とキャラの違うキュートな曲にしたいという希望を受けてハッピーでチャーミングなアレンジに仕上げました。ウッドブロックやギロ、シェイカーなどパーカッションやファルセット主体のコーラスワークでポップな雰囲気を演出しました。実は聞間拓の歌とファルセットのハモリは親和性があるんだよね。
4.無いものねだり
弾き語りのデモを聴いた時、すぐ頭の中でアレンジの方向性が決まった曲。そして歌詞の内容を2人でディスカッションして確認しながら細かいアレンジを決めていった。アコースティックギターとスレイベルの響きから始まり、歌の世界に寄り添うのはフルートの響きしかないと思った。フルートとストリングス、メロトロンの響きが絡み合ってこの歌の主人公の想いと心の変化に寄り添うアレンジが完成しました。
5.「意味のない言葉」
聞間拓のファンキーなアコギのストロークをそのままバンドでやったらこういう曲になるだろう、そういうイメージでアレンジをしていった曲。僕がやりたいと思うファンクロックを存分に出したファンキーでシリアスでかっこいいアレンジだけど、ちゃんとオチもあります(笑)むしろそのオチを活かすためにも激カッコいいアレンジに仕上げました。
6.ちぎれ紙の上、青虫。
これも初期にアレンジが出来上がってた曲。10数年前の曲という事で、持ってきた音源の音質があまり良くなくて、踏襲出来るところは踏襲して新たに作り直す事にした。クラブっぽいアレンジにした事で歌の世界がより引き立つ仕上がりになったと思います。
7.桃の香り
聞間拓にとってとても大切な曲だと思うので、扱いがデリケートだと感じていて最初はアレンジに迷ったんだけど、弾き語りをベースにセクションごと表情を変えていくアレンジにする事で曲のストーリーにシンクロさせる事が出来たと思う。曲の本質を壊さないように、それでいて感情の振れ方を表現出来たらという想いで作りました。曲の優しさと悲しさが届いてくれたら嬉しいな。
8.バカは生きなきゃ治らない
アコギと歌だけのデモ音源からアレンジを生み出す作業、僕はこれが割と得意なんだけど、聞間拓のそれと相性が良いのか拓の音源は僕の頭の中で自然にバンドサウンドに変換される。もちろんこの曲もそうで、聴いた時に大きなグルーヴの上にパーカッションのループを重ねたワイドで奥行きのあるサウンドにしたいと思った。リズムパターンをいくつか作ってそこから絞っていったんだけど、最後に残ったのがハウスっぽい4つ打ちビートのパターンとフロアタムを多用した大きなグルーヴ。拓の意見も取り入れて最後はこのグルーヴに決めた。ちょっと意外性のあるリズムパターンだけどこれが曲のテーマを際立たせていると思う。
9.心、動け
小川徹のピアノをフィーチャーした曲。聞間拓ファンだけではなく「ききまたく」ファンの皆さんにも喜んで貰いたいという想いのもとアレンジしました。過去のライブテイクをもとにアレンジを再構築していったんだけど、やはりメインはピアノであるべきだなと。ギター、ベースは敢えてシンプルに。個人的にこの曲のベースソロは自分のプレイの中でもかなり秀逸だと思ってる。アレンジのダイナミクスも歌の熱量やストーリーとシンクロしていると思う。最後にティンパニでロールを入れたくて新しい音源買い足したくらいこだわった曲です。
10.全ツッパ!
これもある意味聞間拓らしい1曲。アコギで作ってきたデモをバカ真っ直ぐなロックンロールにアレンジしました。シリアスとコミカル、真剣さと悪ふざけを交互に散りばめたような賑やかな曲になりました。ぜひイヤホンやヘッドフォンで聴いてください、音の定位とか動きとかも楽しんでもらえると思います。
11.君が生きてる間に(ALBUM VERSION)
シングル「フレア」に収録した曲だけど、アルバムアレンジに直して入れたいと僕が提案しました。ピアノをメインにしてシングル版に入れたオルガンは控えてギターも録り直し、ドラムトラックも作り直しました。アレンジはシンプルだけどその分ボーカルとコーラスワークが活きるアレンジになりました。
12.駅
アレンジのベースになったのは過去のライブテイク。さらに良い形に、より良いグルーヴのエイトビートにしようとドラムロールの細かいところまで丁寧にリズムを構築しました。シンプルだからこそ大切なリズム、まるで列車が走るように生き生きとしたグルーヴで曲を後押ししました。
13.遥か遠くの隣から
このアルバムの中で一番最後に完成した曲。レコーディング中盤にはプリアレンジが出来上がっていたんだけど、曲タイトルが良かったんでその分歌詞で納得いかない部分が生まれてしまって唯一僕の希望で歌詞を書き直してもらった。拓が想いを馳せるあの地の人々の心に届くように、寄り添う歌になるようにさらに歌詞にこだわってもらった曲です。最後の最後まで決まらなかった4行を2人で考えて作りました。この曲タイトルが好きで、タイトルに負けないようなドラマティックな曲に仕上がったと思っています。
14.一国一城の歌
アルバムの最後に相応しい曲。アレンジが完成した際にラストはこの曲しかないと2人の意見が一致しました。全国各地で地元を守りながら歌い続ける仲間たちに捧げた歌、その美しいメロディと想いを最高の形で届けるために力を尽くしてアレンジしました。特にサビのドラマティックなメロディとコードを活かすよう美しいアレンジに仕上げました。RYOJIROCKアレンジの真骨頂であるコーラスワークとベースライン、落ちサビのベースラインとコーラスワークの美しさを感じてもらえたら幸いです。アルバムのラストだけどこれで終わりじゃない、ここからまた始まるんだという意味を込めたアルバムラストナンバーです。